横浜地方裁判所 事件番号不詳〔1〕 判決
横浜市鶴見区江ヶ崎一六四番地
原告
岸本芳春
右訴訟代理人弁護士
増本一彦
同
川又昭
同
武下人志
同
佐藤卓也
右訴訟復代理人弁護士
山内忠吉
同
吉村駿一
横浜市鶴見区鶴見町一、〇七一番地
被告
鶴見税務署長
古屋博顕
右訴訟代理人弁護士
島村芳見
右指定代理人
丸山喜美雄
同
興梠嘉男
同
小沢邦重
同
岡村俊一
同
渡辺信
同
横山邦男
同
押田茂雄
同
直井敏男
主文
被告が原告に対し、昭和三九年分所得税について、昭和四〇年一一月三〇日付でした更正処分(但し、東京国税局長の昭和四二年八月二六日付裁決による変更後のもの)のうち、総所得金額において一一二万五、八二〇円、課税総所得金額において七八万四、一五〇円、税額において一一万九、〇〇〇円をそれぞれ超過する部分を取消す。
原告のその余の請求は棄却する。
訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の負担とし、その一を被告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一、原告
「被告が原告に対し、原告の昭和三九年分所得税について、昭和四〇年一一月三〇日付でした更正処分(但し、東京国税局長の昭和四二年八月二六日付裁決による変更後のもの)はこれを取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。」
との判決。
二、被告
「原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。」
との判決。
第二当事者の主張
一、請求の原因
1. (本件更正処分に至る経緯)
原告は被告に対し、昭和四〇年三月一五日ころ、昭和三九年分所得税にかかる確定申告書を、次表の確定申告欄のとおり記載して提出したところ、被告は同年一一月三〇日、同表更正処分欄記載のとおり更正して、その旨通知をした。
そこで、原告は被告に対し異議申立をしたが、被告が昭和四一年三月二五日同表異議決定欄記載のとおり決定をしたため、原告は同年四月二五日東京国税局長に対し審査請求をしたところ、同国税局長は昭和四二年七月一日付で同表審査裁決欄記載のとおり裁決をし、その裁決書謄本は同年八月三〇日ころ原告に送達された。
<省略>
2. しかしながら、右審査裁決によつて変更された後の前記更正処分(以下、本件更正処分という)にも、まだ原告の所得を過大に認定した違法があるので、本訴によりその取消を求める。
二、請求原因に対する認否
1. 請求原因1の事実は認める(但し、原告主張の確定申告書の提出は昭和四〇年二月二六日であり、審査請求がなされたのは昭和四一年四月二七日である。)。
2. 同2は争う。
三、被告の主張
1. 本件更正処分に推計を用いた理由
原告は、肩書地に居住する建築業者であつて、いわゆる白色申告納税者であるが、被告所属係官が、本件更正処分を行なうに先立つて、昭和四〇年九月、原告方に臨場し、原告に面接して、原告の昭和三九年分の所得について調査を実施し、帳簿書類の提出を要請した。これに対して原告は当初、「帳簿は作成してありません。仕事は建築請負業であるので常用の雇人はなく、請負の都度必要に応じて職人を使うこととしているので、出面帳(雇人の日々の出勤状況及び作業現場を簡記したもの)の記録も行なつていません。」と答え、帳簿はおろか原始記録の提出にも応じなかつた。
しかし、同係官から再三要請されて、ようやく建築請負契約書並びに外注費関係の請求書を提出したが、営業上当然に必要と認められる現金出納帳、経費帳及び工事請負台帳等は遂に提示せず、原始記録の整理・保存も十分でなかつたのみならず、同係官の質問に対して終始不得要領な態度をとり、誠意のある答弁をしなかつた。
このような事情のため、原告に対して調査を続行しても、収支実額に基づく正確な所得金額の算出は到底不可能であると判断されたので、やむを得ず、原告の提示した一部の資料と取引先等から知り得た資料とを基礎として、昭和三九年分所得税に適用のある昭和二二年法律二七号所得税法(以下、旧所得税法という)四五条三項の規定により、原告の昭和三九年分の所得金額を推計して、本件更正処分を行なつた。
2. 本件更正処分の根拠
(一) 原告の昭和三九年分の総所得金額は、以下に述べるとおり三三九万八、七一六円であるから、その範囲内でなされた本件更正処分は適法である。
(1) なお、被告は、本訴においては、原告提示の一部の資料、被告が原告の取引先に対して行なつた反面調査の資料及び原告の申立等(本件更正処分後に収集した資料も含む)を斟酌し、総収入金額外注費、材木費、その他の経費については実績で把握し、前記1に述べた理由から、実額で把握できなかつた人工賃のみについては推計によつて計算し、もつて原告の右総所得金額を算出した。
(2) 又、被告は、原告の昭和三九年分の収入については、いわゆる工事完成基準により工事が完成しその引渡が同年内に完了したものをもつて収入に計上し、右収入に対応する費用(いわゆる原価)については、原告が昭和三九年中に現実に支出した金額によつて計算した。
けだし、通常、製造業における原価計算は、原価計算基準(昭和三七年一一月八日大蔵省企業会計審議会中間報告)第一章の六に定められているような方法によるのであるが、原告は個々の請負工事に対応して原価を計算することができる資料を備えておらず、かつ右のような対応関係を具体的に説明することもできなかつたので、右方法によることができなかつた。しかし、原告が毎年、同規模同程度の請負工事を継続して行ない、その工事期間がいずれも短期であること、昭和三九年において特に材料の仕入等を差控えた等の事情もないことが認められたので、原告が同年中その事業のために現実に支出した金額をもつて原価とする方法により認定したもので、右原価認定の方法に違法はない。
しかして、右のように、収入と原価とをいわば期間的対応によつて把握する方法によつた以上、ある収入が計上もれであつたとして被告によつて追加計上されたからといつて、直ちに右収入に見合う費用(原価)が計上もれになつているものということはできないものである。
(二) 総収入金額一、三九一万五、〇三〇円について
(1) 被告は、上述の資料に基づき、原告の昭和三九年分の、建築工事請負による総収入金額を、次表のとおり実績で算出した。
<省略>
(2) 被告が前表<4>記載の小林信房宅工事代金二四〇万円を原告の昭和三九年分収入金額に計上したのは、次の理由による。
すなわち、原告と小林信房との間で昭和三九年一〇月三日締結された建築工事請負契約によると、工事代金支払方法として、契約成立時 八〇万円、建物終了時 一〇〇万円、建物完成時 六〇万円とされているところ、小林信房は、右契約に基づき、工事代金を、昭和三九年一〇月三一日 着手金として八〇万円、同年一一月二三日 中間金として一〇〇万円、同年一二月二八日 完成金として六〇万円各支払つた。もつとも、前記契約によれば、工事期間は昭和三九年一〇月末日から昭和四〇年二月末日までとなつているけれども、実際には昭和三九年一二月末に工事を完了し、引渡を了していたので、被告は、右工事代金全額を原告の昭和三九年分の収入金額に計上したものである。
(3) 被告が前表<5>記載の鈴木甚太郎宅工事代金一〇七万円を原告の昭和三九年分の収入金額に計上したのは、次の理由による。
すなわち、神奈川県鶴見県税事務所の不動産取得課税決議書によれば、鈴木甚太郎宅工事は昭和三九年三月完成と表示されており、又、原告は右工事の代金として鈴木甚太郎から、昭和三八年一〇月七日 三〇万円、同年一一月二五日 四〇万円、昭和三九年二月二七日 三七万円の各支払を受けた。以上のような不動産取得税課税決議書の記載内容及び工事代金の支払状況から、鈴木甚太郎宅工事は、昭和三八年一〇月七日前後に着工し、同年一一月二五日前後に上棟し、昭和三九年二月二七日前後に完成したものと判断して、同工事の代金を全額、原告の昭和三九年分の収入金額に計上したものである。
なお、鈴木甚太郎宅の工事代金全額は昭和三八年分の収入金額として確定申告済みであるとの原告の主張は、同工事のうち、中塗り及び仕上壁工事が昭和三九年中になされた事実に照らせば、前記工事完成基準によることなく恣意的に年度を違えて計上するもので、合理的でないのみならず、原告の昭和三八年分所得税についての確定申告書によれば、総収入金額として営業収入三八万七、〇〇〇円、その他の事業収入二五万八、〇〇〇円が記載されているのみであるから、右総収入金額中に、鈴木甚太郎宅の工事代金一〇七万円が含まれているものとは認められない。
(三) 外注費五三二万九、四八九円について
(1) 原告が昭和三九年中にその事業のために現実に支出した外注費は、原告の提出した関係書類に基づいて、次表のとおり実額で算出した。
<省略>
(2) なお、タイル工事にかかる支払金額については争いがあるので、その支払明細を示すと次のとおりとなる。
<省略>
(四) 材木費三二九万二、八二五円について
(1) 原告が昭和三九年中にその事業のために現実に支払つた材木費は、原告の取引先の反面調査等により知り得た資料に基づき、次表のとおり実額で算出した。
<省略>
(2) なお、原告が、右材木費のほかに伊藤商店からの材木仕入代金五八万六、七三〇円があるとして、領収書四通を、審査請求の際東京国税局に提出したことは後記の原告主張のとおりであるが、右領収書四通は、次に述べる理由から、審査請求に対する裁決を有利にするために偽造されたものと判断されたため、原告の右主張を認めなかつたものである。
すなわち、原告は、本件更正処分における調査の際、被告所属の係官に右領収書四通を提示せず、異議申立書にも材木代として右四通の領収書に相当する金額を記載していない。又、東京都江東区深川三好町の表示には、すべて丁目が付され、地番はすべて二桁以下であつて、右領収書四通に記載されている「東京都深川三好町三八〇番地」は事実上存在せず、江東西税務署管内の所得税、法人税納税者の中にも伊藤商店と称する材木商は存在しない。さらに、右領収書四通の但書欄には、品名・数量等の記載がなく、印鑑は同一であるが筆跡は同一人のものとは認められない等、その記載内容の真実性は疑わしい。
(五) 人工賃一七七万四、〇〇〇円について
原告が昭和三九年中にその事業のために現実に支払つた人工賃については、その支払の事実を証する書類の保存もなく、しかも出面帳の記載もないので、止むなく、被告の調査により知り得た事項及び原告の提出したその他の資料に基づいて延人工数の推計を行ない、これに原告主張による一日当りの人工賃を乗じて算出した金額から、原告主張による原告自身の労賃相当分を控除して昭和三九年中の右人工賃を推計した。以上の説明を具体的に示せば次のとおりである。
(1) 原告主張に基づいて、一坪当りの人工数を算出すると、別表記載のとおり四・七人となる。
(2) 被告の調査によると、原告は原告主張の工事のほかに、鈴木甚太郎宅工事を請負つているので、同工事の延人工数を考慮するに、同工事の建築坪数は、二六坪であるから、前記一坪当りの人工数四・七人を適用して同工事にかかる工延人数を算出すると、一二三人と推定される。
又、小林信房宅の建築坪数は、原告提出の資料によると三九坪であり、同工事は三九年一二月に完成して建築主に引渡されたので、同工事にかかる延人工数は一九五人と推定される(100人×(39坪÷20坪)=195人)。
そして、右のほか鈴木義一の常用工事にかかる延人工数六二人(原告主張による)があるので、以上を合計した総人工数一、一九〇人が原告の昭和三九年中の総人工数となる。
(3) 右総人工数に原告主張の一日当りの人工賃一、六〇〇円を乗ずると一九〇万四、〇〇〇円となるが、右金額には、原告の異議申立書の記載によると、原告自身の労賃相当分一三万円〔550,000円(原告の申告額)-420,000円(原告が収支により算出した所得=130,000円(原告主張の原告自身の労賃相当分)〕が含まれているため、これを控除した一七七万四、〇〇〇円が昭和三九年中の人工賃の総額となる。
(六) その他の経費一二万円について
(1) その他の経費については、原告において全然記帳がなく、その支出の具体的内容や金額は不明であつたので、原告が異議申立書において、職人のお茶菓子代その他の雑費として申立てた金額一二万円を認容し、これをもつて原告の昭和三九年中その事業のために現実に支出した諸経費とした。
(2) なお、原告は、その他の経費として、電話料、冠婚葬祭費の費用、その他目に見えない経費等一部家事関連費を含むと認められる金額合計二五万四、八〇〇円を概算により主張するが、その主張にかかる諸費用は、旧所得税法に規定する必要経費に該当しない。すなわち、旧所得税法一〇条二項にいう必要経費というためには、当該収入を得るために通常必要とされる費用をいい、少なくとも収入との関連性があつて、その主たる部分が収入を得るために必要であり、その必要である部分が明瞭に区分できるものに限られ、それ以外のものは必要経費には含まれないのである。
(七) 総所得金額三三九万八、七一六円について
以上によれば、原告の昭和三九年分所得税にかかる総所得金額は、前記(二)の総収入金額から前記(三)ないし(六)の必要経費を控除した三三九万八、七一六円となる。
(八) 結論
しかして、原告の昭和三九年分所得税にかかる所得控除額は二三万二、八七〇円であるから、課税総所得金額を一一〇万六、〇〇〇円とする本件更正処分は適法である。
四、被告の主張に対する原告の認否並びに反論
1.「被告の主張」1について
(一) 本件更正処分に推計を用いた理由に関する被告主張のうち、原告が被告所属の係官の質問に対して不要領な態度をとり誠意ある答弁をしなかつた、との点は否認する。
(二) 原告は被告所属の係官に対し、契約書、領収書その他の関係資料を提出して同係官の税務調査に協力したものであつて、そのことは、被告が原告提出の資料に基づいて昭和三九年分の所得金額を算出していることよりして明らかである。
2. 同2について
原告の昭和三九年分の総所得金額は確定申告のとおり五五万円を超えない。
(一) 総収入金額について
(1) 総収入金額に関する被告の主張のうち、原告に、昭和三九年分の収入となるべき、斉藤儀一郎から四〇〇万円、稲葉勇蔵から三四〇万円、稲葉吉照から二六五万円、小林信房から一二〇万円、鈴木義一から三九万五、〇三〇円円の収入があつたこと、小林信房宅工事代金が二四〇万円であること、鈴木甚太郎宅工事の工事代金が一〇七万円であり、同工事には昭和三八年一〇月に着工したことは認め、小林信房宅工事代金二四〇万円全額が、又鈴木甚太郎宅工事代金一〇七万円がそれぞれ昭和三九年分の収入金額となること、同工事が昭和三九年二月二七日ころ完成したことは否認する。
(2) 被告主張の小林信房宅工事は、昭和三九年一〇月着工し、昭和四〇年二月完成したが、同工事は、その半分が昭和三九年に施工され、残余は昭和四〇年に施工されたので、同工事代金二四〇万円のうち半額の一二〇万円が昭和三九年分の収入金額となるべきものである。
(3) 被告主張の鈴木甚太郎宅は、昭和三八年一〇月着工し、同年中にほとんど完成し、ただ中塗及び仕上壁の工事の一部が昭和三九年に残された程度であつたので、原告は同工事の代金一〇七万円を昭和三八年分所得税の確定申告に計上したものである。
(二) 外注費について
(1) 外注費に関する被告主張事実のうち、昭和三九年四月六日のタイル工事支払金額が九、四二〇円であること、したがつて、昭和三九年中のタイル工事にかかる支払金額が二一万三、〇二〇円であることは否認し、その余の事実は認める。
昭和三九年四月六日のタイル工事支払金額は九、四七〇円であり、したがつて、昭和三九年中のタイル工事にかかる支払金額は二一万三、〇七〇円となる。
(2) 被告主張の外注費のほかに、材料費及び修理費として昭和三九年中に支出した金額一二万三、二四六円が存在するので、右金額も必要経費に計上されるべきである。右金額の明細は次のとおりである。
<省略>
(三) 材木費について
(1) 原告が昭和三九年中に、被告主張の各材木店から材木を仕入れ、その主張のとおりの材木代金を支払つたことは認める。
(2) 原告は昭和三九年中に被告主張の材木店のほかに伊藤商店から材木を仕入れ、その材木代金として五八万六、七三〇円支払つたので、右材木代金も昭和三九年分の材木費に計上されるべきである。
原告は、右材木代金の領収書五通を審査請求の際東京国税局に提出したが、同国税局はこれを看過した。
(四) 人工費について
(1) 人工賃に関する被告主張事実のうち、別表記載の各得意先にかかる工事の建築坪数、延人工数が同表記載のとおりであること(但し、小林信房宅工事の建築坪数は除く)、鈴木義一を注文主とする常用工事にかかる延人工数が六二人であること、昭和三九年中の一日当りの人工賃が一、六〇〇円であることは認める。
(2) 右争いない事実によれば、原告の昭和三九年分の人工賃は、昭和三九年中の総人工数九七二人(別の延人工数合計に鈴木義一分を加算したもの)に一日当りの人工賃一、六〇〇円を乗じて得られる一五五万五、二〇〇円から、それに含まれている原告自身の労賃相当分四万七、〇〇〇円を控除した一四七万八、二〇〇円となる。
(五) その他の経費について
原告の昭和三九年分のその他の経費は次のとおりである。
<省略>
<省略>
3. 原告の予備的反論
(一) 仮に被告主張のごとく小林信房宅の工事代金二四〇万円の全額が昭和三九年分の収入金額に計上されるとするならば、原告が同工事に関して昭和三九年中に支払つた経費を同年分所得税にかかる必要経費として計上するのみでは足りず、昭和四〇年に支払つた経費も昭和三九年分所得税にかかる必要経費として計上されるべきである。
そして、原告が同工事に関して昭和四〇年中に支払つた外注費及び人工賃は次のとおりである。
(1) 外注費七二万六、〇二〇円の内訳
<省略>
(二) 又、仮に被告主張のごとく、鈴木甚太郎宅の工事代金一〇七万円が昭和三九年分の収入金額になるとするならば、被告は同工事に関する人工賃一九万六、八〇〇円を昭和三九年分所得税にかかる必要経費として計上するのみでは足らず、同工事に関する外注費、材木費等の経費も昭和三九年分所得税にかかる必要経費として計上すべきものである。
第三、証拠
一、原告
1. 甲第三号証の一ないし五、第四号証の一ないし一七、第七号証の一、二、第八号証の一ないし四。
2. 証人岩井勇の証言、原告本人尋問の結果。
3. 丙第一号証の一、二、第二、第三号証、第四号証の一ないし三、第九、第一〇号証の成立は認め、その余の丙号各証の成立は不知。
二、被告
1. 丙第一号証の一、二、第二、第三号証、第四号証の一ないし三、第五ないし第七号証、第八号証の一ないし三、第九、第一〇号証。
2. 証人大川修邇の証言。
3. 甲第三、第四号証の各一、第七号証の一、二、第八号証の一ないし四の成立は認め、その余の甲号各証の成立は不知。
理由
第一、本件更正処分に至る経緯について
原告が被告に対し、昭和三九年所得税にかかる確定申告をした日及び原告が東京国税局長に対し審査請求した日を除き、本件更正処分に至る経緯が原告主張(請求原因1)のとおりであることは当事者間に争いがない。
第二、本件更正処分の適法性について
一、推計課税の要件について
1. 課税処分は、租税行政の公正を期し、納税者の権益を保護するため、調査実額に基づいてなされるのが本則であり、推計による課税処分が許容されるのは、納税者が信頼するに足る帳簿等の資料を備えていないためあるいは課税庁の調査に対してそのような資料の提示を拒否するなど非協力的態度をとる等のため、所得を実額で把握しえない場合(推計の要件)に限られるものというべく、右推計の要件が存在しないのに推計によつてなされた課税処分は違法であり、その理由のみで取消を免れない。
2. そこで、本件更正処分についての右推計の要件の存否を検討する。
(一) 成立に争いのない丙第一号証の一、二、第二号証、証人大川修邇、同岩井勇の各証言、原告本人尋問の結果(後記措信できない部分を除く)及び弁論の全趣旨によれば、原告は肩書地において建築請負業を営む、いわゆる白色申告納税者であること、原告は、その営業に関して金銭出納簿等の会計帳簿は一切作成しておらず、昭和三九年分所得税にかかる確定申告書は、保管してあつた請負契約書や領収書等に基づいて作成したこと、被告所部の係官が本件更正処分を行うに先だち、二度にわたつて税務調査のため原告宅に臨場し、原告に対し会計帳簿及び関連書類等の提出を求めたが、原告は会計帳簿は作成していない旨返答して、請負契約書の一部、外注費、材木費に関する領収書の一部を提出したのみで、他の請負契約書、領収書を提出せず、かつ収支について具体的説明をしなかつたこと、そのため被告は、原告提出にかかる右資料、原告の取引先に対する反面調査によつて得た資料により原告の昭和三九年分の収入金額を実額で把握したが必要経費は実額で把握しえなかつたため、東京国税局管内の原告と同業者の平均経費率により推計し、もつて、原告の昭和三九年分所得税にかかる総所得金額を算出して本件更正処分を行つたこと、原告は右更正処分に対する不服手続において、右以外の領収書等を被告あるいは東京国税局に対して提出したことの各事実が認められ、右認定に反する原告本人の供述は措信できないし、他に右認定を左右するに足る証拠は存しない。
(二) 右認定事実によれば、本件更正処分については、前記推計の要件は存在していたものというべきであるから、本件更正処分を推計の方法によつたことに何ら違法はない。
3. なお、推計による課税処分が推計の要件を満たし、その点について違法の存しない場合に、課税庁が、右課税処分の取消を求める抗告訴訟において、その課税処分を維持するため、納税者の所得をその課税処分をなした際の推計方法とは異なる方法(実額による場合もあろうし、推計方法を異にする場合もあろう)により算出して主張することは、行政処分の適否を審理判断する抗告訴訟の本質からして、もとより許されるのであるから、被告が本訴において、本件更正処分の際に採用した推計の方法(推計の範囲を含む)と異なり、原告の昭和三九年分の必要経費のうち人工賃のみが実額で把握できないとしてこれのみを推計によつて算定したとしても、本訴において、右推計部分を実額で明らかにするに足る資料の提出がない以上(右のような資料は全証拠を精査するも認められない)、その方法が合理的である限り許されるのである。
二、原告の昭和三九年分所得税にかかる総所得金額(課税標準)の計算根拠について
1. 総収入金額
(一) 原告は、昭和三九年分の収入金額となるべき、斉藤儀一郎から四〇〇万円、稲葉勇蔵から三四〇万円、稲葉吉照から二六五万円、鈴木義一から三九万五、〇三〇円の各収入を得たこと、小林信房宅工事代金が二四〇万円であること、鈴木甚太郎宅工事代金が一〇七万円であることは当事者間に争いがない。
(二) ところで、旧所得税法一〇条一項にいう「収入すべき金額」とは、収入すべき権利の確定した金額をいい、その確定の時期は、いわゆる事業所得にかかる請負工事代金債権で、請負契約の目的物の引渡を要する場合にあつては、その目的物の引渡が完了した時と解するのが相当であるから(最高裁昭和三九年(あ)第二、六一四号・昭和四〇年九月八日第二小法廷決定参照)、法律に特段の規定のないかぎり(昭和四〇年法律第三三号所得税法六七条参照)、右のような請負工事代金債権は、全額その目的物の引渡を完了した日の属する年度の収入金額となるというべきである。
(三) そこで、小林信房宅工事による工事代金債権二四〇万円の帰属年度について検討する。
(1) 成立に争いのない甲第七号証の一、丙第三号証、第四号証の二、三、成立に争いのない丙第一〇号証によつて真正に成立したものと認められる丙第五ないし第七号証、証人岩井勇の証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告と右小林との間に、昭和三九年一〇月三日、工事期間を同月末日から昭和四〇年二月末日までとし、工事代金支払方法を契約成立時八〇万円・建物終了時一〇〇万円・建物完成時六〇万円とする、木造瓦葺二階建アパート建築請負契約が締結されたこと、小林は原告に対して、昭和三九年一〇月三一日着手金として八〇万円、同年一一月二三日中間金として一〇〇万円を各支払つたこと、昭和四〇年二月末日か三月初めころ、同工事は完成し、同年三月中に建物完成時に支払われる約定の六〇万円の支払いを受けたことが認められ、右認定事実によれば、小林信房宅が完成して建築主たる右小林に引渡されたのは昭和四〇年になつてからである。
(2) もつとも、成立に争いのない丙第四号証の一(領収書)には、建物完成時に支払われる約定の六〇万円が、銅工、タタミ、ペンキ工事代として、昭和三九年一二月二八日に原告が小林から受領した旨記載されており、前出丙第五ないし第七号証、第一〇号証によれば、小林は、被告からの家屋建築等に関する照会書に対しても、又被告所部の係官に対しても、右六〇万円は昭和三九年一二月二八日に支払つた旨回答あるいは供述していることが認められる。
しかしながら、前出丙第五号証、証人岩井勇の証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告は右六〇万円は昭和四〇年三月ころ支払を受けたのであるが、小林は、右工事の資金の大部分は、川崎市東耕地所在の自己所有地を売却した代金をもつて充てているところから、右土地を売却したその年度内に居住用の建物を建築、完成した場合には、居住用財産の買換の場合として租税法上の特典を受けうるので、右建物が昭和三九年中に完成したことにしたいとして、右六〇万円の領収書の日付を昭和三九年一二月二八日にして欲しい旨原告に依頼したため、原告は求められるままに、領収日を現実のそれより遡及させた領収書(丙第五号証)を発行したことが認められ、右認定は、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によつて認められる次のような事実、すなわち、原告が外注費関係の領収書として被告に提出したもののうち、「昭和四〇年中に支払われたものである」として返却された七二万円余の領収書は右小林信房宅の工事に関するものであつた事実に照らして、十分に支持しうるものというべきである。
そうとすれば、前記摘示の丙第四号証の一の記載、小林の回答及び供述は、小林信房宅工事が昭和四〇年中に完成し引渡されたとする前記認定を左右するに足りないものというべく、他に前記認定を左右するに足る証拠は存しない。
(3) さすれば、小林信房宅工事による収入は昭和四〇年分の収入金額とはなつても、昭和三九年分の収入金額とはなりえないものである。
(四) ついで、鈴木甚太郎宅工事による工事代金債権一〇七万円の帰属年度について検討する。
(1) 前出丙第七号証、前出丙第一〇号証によつて真正に成立したものと認められる同第八号証の一ないし三によれば、原告の鈴木甚太郎宅工事は、昭和三八年一〇月に着工し、昭和三九年三月に完成して引渡されたことが認められ、右認定に反する原告本人の供述は措信できないし、他に右認定を左右するに足る証拠は存しない。
(2) なお、原告は、鈴木甚太郎宅工事は昭和三八年一二月に完成したとし、その根拠として、昭和三八年分所得税にかかる確定申告において右工事代金一〇七万円を同年分の収入金額として計上した旨主張するが、前出丙第一号証の二によれば、原告は右確定申告においては、昭和三八年の総収入金額は六四万五、〇〇〇円と申告しているにすぎないことが認められるのであるから、原告の右主張は到底信用できない。
(3) さすれば、鈴木甚太郎宅工事による収入は昭和三九年分の収入金額となるものというべきである。
(五) 以上によれば、原告の昭和三九年分所得税にかかる総収入金額は、斉藤儀一郎からの四〇〇万円、稲葉勇蔵からの三四〇万円、稲葉吉照からの二六五万円、鈴木甚太郎からの一〇七万円、鈴木義一からの三九万五、〇三〇円の合計一、一五一万五、〇三〇円となる。
2. 必要経費
(一) 被告は、原告の昭和三九年分所得税にかかる必要経費を、原告が同年中にその事業のために現に支出した金額をもつて確定した旨主張するので、その適否について検討する。
(1) ある年分の事業所得を内容とする総所得金額は、当該年分の総収入金額から右総収入金額を得るために必要な経費(以下、必要経費という)を控除したものであるところ(旧所得税法九条一項四号、一〇条二項参照)、右総収入金額を構成する個々の収入(収益)源泉毎にそれに対応する経費(費用)を合計する方法(もつとも、販売費、一般管理費等の費用については、より緩やかな対応によることとなるも)によつて、右総収入金額に対応する必要経費すなわち当該年分の必要経費を確定することが最も厳格に収益・費用対応の原則を適用し、したがつて、当該年分の損益を最も正確に把握するものということができるが、納税者の事業が、当該年分及びその前後の年分においてほぼ同一規模で継続的になされていて、当該年分においてその事業にかかる費用の支出を差控えた等の特段の事情のない限りは、当該年分に現にその事業のために支出した費用をもつて、当該年分の総収入金額に対応する必要経費とすることも税法上許されるものというべきである。
もつとも、納税者たる原告が、本訴において、被告主張以上の必要経費を、前記の如き厳格に収益と費用を対応させる方法によつて、立証するときは、被告の採用した方法以上に必要経費を正確に確定することができるものというべきであるから、その場合には昭和三九年分の必要経費の額は右原告の立証にかかる額とすべきであるが、本訴においては原告はそのような立証をしていない。
(2) しかして、前出丙第一号証の一、二、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、第二次世界大戦後一貫して建築請負業を営み、昭和三八年から昭和四〇年までの間ほぼ同一規模で右事業を継続して営んでいたこと、昭和三九年分において、原告が右事業に関して材木代等の経費の支払を差控えた等の特段の事情はないことが認められるから、被告の採用した必要経費確定に関する方法に違法は存しないというべきである。
(二) 外注費
(1) 被告主張の外注費のうち、昭和三九年四月六日タイル工事のため支払つた金額が九、四七〇円であることは、成立に争いのない丙第二号証及び弁論の全趣旨により認められ、その余の外注費五三二万〇、〇六九円が昭和三九年中原告の事業のために支払われたことは当事者間に争いがない。
(2) 原告は、右外注費五三二万九、五三九円のほかに、材料代及び修理代として合計一二万三、二四六円を昭和三九年中その事業のために支払つた旨主張するので検討する。
成立に争いのない甲第四号証の一、原告本人尋問の結果及びこれによつて真正に成立したものと認められる同号証の二ないし一七によれば、原告は昭和三九年中、前記(1)以外の外注費として、原告の事業のために材料及び修理代として、原告主張の各支払先に対してその主張の金額合計一二万三二四六円を各支払つたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠は存しない。
(3) 以上によれば、原告が昭和三九年中、その事業のために支払つた外注費は、(1)及び(2)の合計五四五万二、七八五円であることとなる。
(三) 材木費
(1) 原告が、昭和三九年中、その事業のために被告主張の材木店四店に対して材木代として合計三二九万二、八二五円を支払つたことは当事者間に争いがない。
(2) 原告は、右材木店四店のほかに、伊藤商店から昭和三九年中に材木を仕入れ、その代金を支払つた旨主張するので検討する。
原告提出の甲第三号証の二ないし五(領収書四通)には、それぞれ、「東京深川三好町三八〇伊藤商店が、原告から、昭和三九年二月一四日一三万三、七八〇円、同年三月一〇日一八万二、〇〇〇円、同年七月一八日一七万四、六〇〇円、同年一一月四日九万六、三五〇円を領収した」旨の記載があり、原告本人は、右各領収書は建築現場に直接売りに来た材木店から材木を購入した際に販売者から受取つた旨供述している。
しかしながら、前出丙第二号証、証人大川修邇の証言によれば、被告所部の係官が、本件更正処分に先だち二度にわたつて原告宅に赴き、昭和三九年分の所得額の調査のため資料の提出及び口頭の説明を求めた際には、原告は右伊藤商店に言及することがなかつたのみならず、かえつて、右更正処分に対する異議申立においては、領収書のある材木代は三二九万二、八九八円(被告主張額に極く近似する)である旨申立てていることが認められるし、かつ成立に争いのない丙第九号証によれば、深川三好町には新旧両住居表示によるも三八〇番地なる地番は存在しないことが認められ、原告本人の前記供述はたやすく措信することができない。したがつて、又、前記領収書四通の成立の真正についてもその証明がないものといわざるを得ない。
したがつて、原告主張の材木代五八万六、七三〇円は存在しないものと推認せざるを得ない。
(3) 以上によれば、原告が昭和三九年中に材木費として支払つた金額は三二九万二、八二五円であることとなる。
(四) 人工賃
昭和三九年中に原告の支払つた人工賃を被告が推計によつて算出したことが違法でないことは、すでに説示のとおりであるから、次に被告主張の推計の方法が合理的であるか否かについて検討する。
(1) 総人工数の確定
(イ) 別表記載の各得意先にかかる工事の建築坪数、延人工数が同表記載のとおりであること(但し、小林信房宅工事の建築坪数を除く)、鈴木義一を得意先とする常用工事にかかる延人工数が六二人であることは当事者間に争いなく、小林信房宅工事の建築坪数が被告主張のとおり三九坪であることは前出丙第二号証によつて認められる。
(ロ) 原告が昭和三八年一〇月から昭和三九年三月にかけて鈴木甚太郎宅工事を施工したことは、前記認定のとおりであり、同工事の建築坪数が二六坪であることは、前出丙第二号証によつて認められるところ、別表によれば、原告の施工した建築請負工事の一坪当りの平均延人工数は四・七人(小数点第二位を切上げた)(910人÷193坪)となるから、同工事にかかる延人工数は一二三人(小数点第一位を切上げた)であると推認される。
しかしながら、同工事は昭和三八年一〇月七日施工し昭和三九年三月ころ完成したことはすでに認定したところであり、かつ前出丙第七号証によれば、原告は、鈴木甚太郎から昭和三八年中七〇万円、昭和三九年中三七万円の支払を受けていることが認められるから、同工事に要する延人工数一二三人は、昭和三八年分と昭和三九年分とに二分の一の割合で配分するのが相当であり、したがつて、同工事のために昭和三九年中に要した延人工数は六一・五人と推認すべきである。
(ハ) 以上によれば、原告が、その施工した工事のために、昭和三九年中に要した総人工数は(イ)及び(ロ)の合計一、〇三三・五人となる。
なお、被告は、小林信房宅工事が全部昭和三九年中に施工されたことを前提として、前記一〇〇人のほかに、さらに九五人を右総人工数に加算すべき旨主張するが、同工事が昭和四〇年になつて完成したものであることはすでに認定したところであるから、右主張は失当である。
(2) 総人工賃の算出
昭和三九年中の一日当りの人工賃が一、六〇〇円であつたことは当事者間に争いないから、前記総人工数一、〇三四・五人に右一日当りの人工賃一、六〇〇円を乗ずると一六五万三、六〇〇円となるが、右金額には、原告自身の労賃相当分も含まれていることについては当事者間に争いがないところ、前出丙第二号証によれば、原告は、本件更正処分に対する異議申立の際、右原告自身の労賃相当分を一三万円と申立てていることが認められ、このことから、右労賃相当分は右一三万円と認める。したがつて、前記一六五万三、六〇〇円から右一三万円を控除した一五二万三、六〇〇円が、原告が昭和三九年中その事業のために現に支払つた総人工賃と推計されるものである。
(3) しかして、原告が昭和三九年中にその事業のために現に支出した人工賃を算出した被告の推計方法には、推計の過程の一部(鈴木甚太郎宅工事に要する延人工数一二三人を全部昭和三九年分とした点)及び推計の基礎となつた事実の一部(小林信房宅工事が昭和三九年中に完成したとする点)にそれぞれ誤りがあつたこととなるが、当該誤りの部分を前記のとおり訂正するにおいては、被告の採用した推計方法は合理的なものというべきである。
(五) 諸経費
(1) 被告は、その他の経費については、原告が本件更正処分に対する異議申立書において、職人のお茶菓子代その他の雑費として申立てた金額を認容して、原告の昭和三九年中に支出した諸経費を一二万円とした旨主張し、前出丙第二号証の異議申立書には被告の右主張に副う記載の存することが認められる。
(2) しかるに、原告は、本訴において、<イ>ガソリン代、<ロ>電話料、<ハ>下職の交際費(冠婚葬祭費を含む)、<ニ>建主への中元歳暮費、<ホ>職人への茶菓子代等、職人への給料支払時の接待費、<ヘ>職人及び下職の慰安旅行費、<ト>その他目に見えない経費の合計二五万四、八〇〇円が昭和三九年中に支払われた必要経費である旨主張する。
なるほど、成立に争いのない甲第八号証の一ないし三、原告本人尋問の結果によれば、原告の事業の諸経費としては、原告主張の<イ>ないし<ヘ>の項目の経費が通常のものであり、現に原告が右各項目の経費を昭和三九年中に支払つたことが認められるけれども、その具体的金額については、これを認めることのできる証拠はない。すなわち、原告は、被告の前記認容額を超える多額の諸経費の主張をしながら、単に前記項目毎に一日平均あるいは月平均での概算経費を主張するのみで、その支払の事実を具体的に摘示して主張せず一応の立証もしない。前出丙第二号証、証人大川修邇の証言によれば、原告は、被告所部の係官の税務調査の際及び異議申立手続において、原告主張のような諸経費について説明する機会がありながらこれをしなかつたのみならず、右異議申立手続においてはかえつて、右諸経費は月平均一万円で年間一二万円である旨申立てていることが認められるのである。
そうとすれば、原告の昭和三九年分の諸経費は、被告認容額一二万円を超えた部分については一応の立証もないので右部分は存在しないものと推認せざるを得ない。
(六) なお、原告は、鈴木甚太郎宅工事代金一〇七万円を昭和三九年分の収入金額とするならば、その必要経費として人工賃のほか、材木費、外注費、その他の経費を計上しないのは不合理である旨反論するが、被告は、原告の昭和三九年分の総収入金額に対応する必要経費を、昭和三九年中に原告の事業のために現に支出した金額によつて確定する方法によつており、その方法によつたことに違法の存しないことは前記説示のとおりであるから、すでに昭和三九年分の必要経費として計上した材木費、外注費等の諸経費の中には、鈴木甚太郎宅工事のために昭和三九年中に支出した経費も含まれていることは明らかであり、かつ右のような方法によつた以上、それをもつて十分というべきであるから、原告の右反論は失当である。
(七) 以上によれば、原告の昭和三九年分の必要経費総額は、外注費五四五万二、七八五円、材木代三二九万二、八二五円、人工賃一五二万三、六〇〇円、諸経費一二万円の合計一、〇三八万九、二一〇円となる。
3. 総所得金額(課税標準)
したがつて、原告の昭和三九年分所得税にかかる総所得金額は、総収入金額一、一五一万五、〇三〇円から必要経費一、〇三八万九、二一〇円を控除した一一二万五、八二〇円となる。
三、所得控除額について
原告の昭和三九年分所得税にかかる所得控除額について、被告は、二三万二、八七〇円である旨主張し、原告は三四万一、六七〇円である旨主張するので、検討する。
1. 前出丙第一号証の一によれば、原告は、昭和三九年分所得税にかかる確定申告において、昭和三九年中に、旧所得税法一一条の六所定の社会保険料を三、四八〇円、同条の七所定の生命保険料を三口合計二万四、三八〇円、同条の八所定の損害保険料(いずれも短期保険契約の保険料)を一万〇、〇九五円、各支払つた旨、並びに、昭和三九年一二月三一日現在で配偶者控除の対象となる配偶者及び扶養控除の対象となる満一八歳と満九歳の子が存在する旨を申立てていることが認められるところ、被告はその主張の所得控除の内訳については何ら主張、立証しないから、原告の右申立内容は真実のものと認めざるを得ない。
2. さすれば、旧所得税法一一条の六により、前記社会保険料三、四八〇円は全額、同条の七、昭和三九年法律第二〇号にともなう附則三条により、前記生命保険料二万四、三八〇円のうち二万一、五九〇円〔18,800円+(24,380円-18,800円)×1/2=21,590円〕、同条の八、同附則三条により、前記損害保険料一万〇、〇九五円のうち一、五〇〇円がそれぞれ総所得金額から控除され、又同条の九、同附則三条により、一〇万八、八〇〇円が配偶者控除として、同条の一〇、同附則三条により八万八、八〇〇円が扶養控除として、同法一二条の二、同附則三条により一一万七、五〇〇円が基礎控除として、それぞれ総所得金額から控除されることとなる。
3. 以上によれば、原告の昭和三九年分所得税にかかる所得控除額は、社会保険料三、四八〇円、生命保険料二万一、五九〇円、損害保険料一、五〇〇円、配偶者控除分一〇万八、八〇〇円、扶養控除分八万八、八〇〇円、基礎控除分一一万七、五〇〇円の合計三四万一、六七〇円となる。
四、課税総所得金額及び税額について
したがつて、原告の昭和三九年分所得税にかかる課税総所得金額は、前記総所得金額一一二万五、八二〇円から右所得控除額三四万一、六七〇円を控除した七八万四、一五〇円となり、同税額は、旧所得税法一五条の一項により一一万九、〇〇〇円となる。
第三、結論
よつて、本件更正処分のうち、総所得金額(課税標準額)が一一二万五、八二〇円を超過する部分、課税総所得金額が七八万四、一五〇円を超過する部分、税額が一一万九、〇〇〇円を超過する部分はいずれも取消を免れないので、訴訟費用の負担については、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 立岡安正 裁判官 中村盛雄 裁判官 長門栄吉)
別表
<省略>